Kiichiro Adachi

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コーヒー

家の近所に一軒の珈琲屋がある。
その店は特別内装にお金をかけているようにも見えない、よく言えば狙ったようなお洒落な感じのしない馴染みやすい店だ。
コーヒーカップも全てバラバラだが、かえってそれが統一感を生んでおりどの柄のものがくるのかも楽しみだ。
とはいえこの土地に引っ越してきて約4年、数える程しか行った事がなかった。
そこのコーヒーは好きなのだが、一人で近所の珈琲屋に行くというのはどうも気がすすまない。
家で飲む方が落ち着ける。
珈琲豆の販売もしているのだが、買えずじまいだった。
聞くのが恥ずかしかったからか?いや、そうではない、僕の腕ではおいしいコーヒーを淹れる自信もなかったし、味をわかった気になって悦に浸っているかもしれない自分が嫌だっかからだ。
そして2年3年と月日は流れた。

AISHO MIURA ARTSでの個展の最終日にギャラリストの知人のコーヒーマイスターの方が来て、作品のイメージに合わせたブレンドコーヒーというものを作ってくれた。
展覧会名に合わせて名前も「SOAP」。──何の豆を使っていたのか失念してしまった。それ以外にもココアバウダーが入っていたりオリーブオイルで煎ていると聞いたような。
そのコーヒーは、薫りに脳がグルッと包まれてそれが天井に吊るされた一本の糸にゆっくりと引き上げられていくような体験だった。
いわゆる至福の一杯。興奮した僕はそのブレンドした豆とおいしい淹れ方の手順を書いた紙を頂き大事に冷凍庫に保管した。
そして数週間後に手順通りに淹れた。

お湯は沸騰後、10秒程冷ましてからのものを使う。
器具やカップを温めておく。
ドリッパーに滴り落ちない程度のお湯を淹れ2,30秒程コーヒー豆を蒸らす。
抽出は中心から外側へ、そして円を描くように。
コーヒーは最後まで落とさずに抽出をやめる。


コーヒーはギャラリーでの至福の一杯を思い出した。
それまで飲んでいたスーパーで売っている安い豆のコーヒーを飲み比べてみると愕然とする程の違いがあった。
とはいえ貧乏性の僕はその豆を破棄することもできず、結局は使い切るまで飲み続けたのだが。
もっとおいしいものがあるとわかってしまえば以前の豆で淹れるペースが遅くなり、なかなか減らない。
グルメになることは恐ろしい。小学生の頃に縁日で釣った小さなカメのようだ。
そのカメはマグロの切り身を与えてからあまりにおしかったのかカメ用の餌を全く食べなくなってしまった。
人も動物も生活水準を一度上げてしまうと落とすのは容易ではないという。
夏も挟んでいたので結局その豆がなくなるのに半年を要した。

そんな時に珈琲屋の道を挟んだ向かいにチェーン店の大きな珈琲屋ができた。
名古屋を中心に展開している珈琲屋らしい。
この辺では珍しい珈琲屋だからなのか新しい珈琲屋には連日客足が途絶えない。
大型ショッピングセンターでその地域にあった商店街が廃れていく。
余計なお世話なのかもしれないが、その思考で僕は以前からあった珈琲屋が潰れやしないかと気になってしまった。
もしかしたらもうそこのコーヒーが飲めなくなるのかもしれない。
スーパーで売っているものだと満足できない。きっかけとしては十分だ。
僕はその珈琲屋で豆を購入することにした。

豆の種類はよくわからないので好みを伝える。店主に酸味の少ない苦味のあるものを選んでもらった。
そしてコーヒーを淹れて飲む。
美味しい。
より多くの味を知りたいという欲求から二回目以降はその週のお買得の豆を購入している。

コーヒーを淹れるという一連の動作は僕の生活の中に特別な所作の一つとして追加された。
これは儀式のように丁寧にこなさなければいけない。
こういったもので生活全てが埋まってしまうのも息苦しくなるだろうが、ある程度あってもいいと思う。



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